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仙台高等裁判所秋田支部 昭和57年(ラ)23号 決定

抗告人 株式会社 東商

相手方 株式会社 小田原屋

主文

原決定を取り消す。

理由

一  抗告人は主文と同旨の裁判を求め、その抗告理由は別紙記載のとおりである。

二  よつて按ずるに本件は抗告人(原告)が相手方(被告)に対し、所有権に基づき相手方の占有する小松製フオークリフト一台(以下「本件機械」という。)の返還を求めて、右機械の以前の所在地を管轄する山形地方裁判所酒田支部に対し、訴を提起したのであるが、同裁判所は右機械引渡の義務履行地は右機械の所在地の裁判所であると解したうえ、山形地方裁判所酒田支部は本件訴訟につき管轄を有しないとの理由で、民事訴訟法第三〇条第一項に則り、これを相手方の普通裁判籍であり、かつ右機械の所在地である福島地方裁判所(郡山支部)に移送したものであることは一件記録によつて明らかである。

ところで本件は相手方に対し所有権に基づき動産たる本件機械の返還を求める訴であるから、相手方の普通裁判籍を管轄する裁判所のほか、同法第五条にいう財産権上の訴として右返還義務履行地の裁判所にも訴を提起し得るものであるところ、所有権に基づく動産の返還請求権の義務履行地については、これを定めた法律上の規定が存しないから、右返還請求権の性質、内容に照らしてこれを決しなければならない。しかして所有権に基づく動産の返還請求権は所有者が物の占有を失つた場合において現に物を占有することにより所有者の占有を妨げている者に対しその物の返還を請求する権利であり、右返還請求権の内容は、占有者が自らの意思で物の占有を取得したものでない場合は格別、占有者が自らの意思で物の占有を取得したものである場合には、占有者に対しその費用と労力とをもつて占有を取得した当時における物の支配状態に回復せしめ、もつて物の返還を請求する権利と解すべく、右のような所有権に基づく動産の返還請求権の性質及びその内容に鑑みれば、所有権に基づく動産の返還請求権に対応する占有者の物の返還義務の履行場所は、他に特段の事情のない限り、占有者が自らの意思で物の占有を取得したものでない場合は、現にその物の存在する場所であり、占有者が自らの意思で物の占有を取得したものである場合は、占有者が物の占有を取得した当時その物が存在した場所と解するのが相当である。けだし右のように解するのが右返還請求権の性質、内容並びに衡平の原則に合致すると考えられるからである。

本件についてこれをみるに、本件記録に徴すれば、本件機械の所有者である抗告人が株式会社酒田物産にこれをリースして引き渡し、右酒田物産が酒田市内において右機械を占有使用していたところ、相手方が右機械をその使用場所から搬出したことが認められるのであるから、右義務履行地は相手方が本件機械の占有を取得した酒田市であり、従つて本件訴訟については右義務履行地を管轄する山形地方裁判所(酒田支部)も管轄権を有するものといわなければならない。

三  してみると、本件について山形地方裁判所酒田支部が管轄権を有しないことを理由に、同法第三〇条第一項によりこれを福島地方裁判所郡山支部に移送した原決定は失当であるからこれを取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤和男 武藤冬士己 武田多喜子)

(別紙)

即時抗告の理由

本件訴について山形地方裁判所酒田支部に、左のとおり管轄権がある。

一 被告は、本件機械を酒田市から権限なく持ち去つた。従つて被告は、本件機械を持ち出した場所である酒田市において返還すべきは当然である。原告の所有権を違法に侵害した被告が、原告に対して郡山市に取りに来いということは常識に反する。

物権的返還請求権の内容として、「動産の場合には、不動産の場合と異なつて、返還をなすべき場所が問題となりうるが、それは原則として返還義務者の占有取得の場所であると解すべき」ものとされている(広中俊雄、現代法律学全集6物権法下巻二五三頁)。

二 被告は本件機械が原告の所有であることをしりながら酒田物産に対する債権を回収する目的で、本件機械を酒田物産の意に反して持ち去つた。

右は原告に対する不法行為を構成する。

原告は、右違法行為によつてもたらされた事態を原状に回復させるために、本訴を提起した。従つて本訴は、不法行為に関する訴である。

菊井、村松(全訂民事訴訟法1八八頁)が、「所有権による物の返還請求」を「不法行為に関する訴ではない。」と記述しているのは、「違法行為によらない場合には、これに関する訴について本条(民訴一五条)の適用がない。」その事例としてあげておられるにすぎず、違法行為による返還請求についてまで否定しておられるわけではない。このことは、営業権等について、不法行為の場合の原状回復について積極に解しておられることによつても明らかである(右同書八八頁、八九頁参照)。

三 右のとおり、民訴法五条及び一五条により管轄権がある。

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